経営者でもよくわかっていない事実とは?
先日ある経営者のYoutubeを見ていて、思ったことがある。「投資(特に設備)」の回収ということの意味が、しっかりできていないビジネスマンが多いのではないかということである。ちゃんとわかっている経理マンなどには当たり前のことであるが、僭越ながら私めが今一度、整理も兼ねてわかりやすく解説してみたいと思う。
端的に言うと設備投資の回収とは、「設備投資金額の回収」のことである。つまり設備投資をして商品を生産販売して利益を上げ、その代金を回収してお金を増やしていくことによって、お金を元より増やすことである。そもそも投資とは、元のお金を増やすことである。
具体的に例を挙げて説明すると、今仮に手元に900円あって、毎年100円利益が出る商品を作って売るために、工作機械を500円で購入したとする。
- 元のお金900円
- 設備投資(工作機械の購入)500円
この時、お金は一時的に400円に減る
- 投資(工作機械購入)直後のお金400円
この状態で、5年間、この工作機械を使って商品を生産販売したとすると、100×5=500円。したがって、5年後には今よりお金が500円増えることになり、
- 投資(工作機械購入)5年後のお金900円
となり、手元のお金は400円(工作機械購入直後)から500円増えることになる。そして、このとき、設備の購入に要した500円(投資)も返ってきて元通りの金額900円になったので「設備(投資)を回収した」ということになるのである。これ以降はこの商品を生産販売し続ける限り、毎年100円づつお金が増えていくことになる。設備(工作機械)の購入が投資と呼ばれるのはこのためである。
損益計算のトリックとは?
一方で、上記のお金の流れをそのまま表示すると、
- 投資(工作機械購入)直後 利益▲500円 お金 400円
- 1年目 利益 100円 お金 500円
- 2年目 利益 100円 お金 600円
- 3年目 利益 100円 お金 700円
- 4年目 利益 100円 お金 800円
- 5年目 利益 100円 お金 900円
- 6年目 利益 100円 お金 1,000円
※▲はマイナスの意
となる。しかしどうだろう?1年目以降の利益が100円出て100円ずつお金が増えていくことは理解しやすいが、投資(工作機械購入)直後の利益▲500円というのは納得しがたくはないだろうか?もし自分が経営者で、今年は投資をしたので利益は大赤字ですなんていう決算は公表したくないと思うし、そもそも投資(工作機械の購入等)というものは会社の存続にはなくてはならないものなので、それがネガティブな受け取られ方をするのは「正しい」とは思えないだろう。
そこで、会計はどのように考えるかというと、設備を購入するに要するお金は、購入時に損益を発生させるのではなく、耐用期間に均等(金額の均等、分配割合の均等)に割り振るべきだと考えるのである。もう少しわかりやすく言うと(こじつけると)、設備(工作機械等)は長持ちするので、使える期間において、機械が摩耗した分だけ費用に計上しよう(損益に影響させる)という考えである。この時会計は、減価償却という考え方を導入し、仮にこの機械の耐用年数(使える期間)が5年とすると、総投資金額を5年で等分、あるいは、5年間で同率の償却費率で計算するなどして減価償却費を算出し、利益計算することを求める。仮にこの減価償却費を5年間等分で毎年100円として計算して、先ほどの表示を修正すると、
- 投資(工作機械購入)直後 利益 0円 お金 400円
- 1年目 利益 0円 お金 500円
- 2年目 利益 0円 お金 600円
- 3年目 利益 0円 お金 700円
- 4年目 利益 0円 お金 800円
- 5年目 利益 0円 お金 900円
- 6年目 利益 100円 お金 1,000円
となる。利益が1年目から5年目まで全く出ていないように見えるが、これは、商品販売利益100円-減価償却費100円という計算の結果である。当然、投資直後の500円のお金の減少は、設備投資と判別して「固定資産」という区分をし、損益計算には含めないので利益はゼロである。なお、当たり前だが、6年目に利益100円出ているのは、5年間の減価償却が終了し、商品販売の利益が具現化したためであるので念のため。
このように修正してもやはり、利益ゼロの年度が5年も続くのは面白くないが、しかし、先ほどの購入時利益▲500円よりはましといえる。また、これに、お金の流れを加えて表示すると、
- 投資(工作機械購入)直後 利益 0円 お金 400円 入出金▲500円
- 1年目 利益 0円 お金 500円 入出金 100円
- 2年目 利益 0円 お金 600円 入出金 100円
- 3年目 利益 0円 お金 700円 入出金 100円
- 4年目 利益 0円 お金 800円 入出金 100円
- 5年目 利益 0円 お金 900円 入出金 100円
- 6年目 利益 100円 お金 1,000円 入出金 100円
と記なり、投資直後の入出金▲500円に「工作機械購入」(投資活動)、それ以降の100円に「商品販売益」(営業活動)とでも注釈をつけておけば、非常に経営がわかりやすく(イメージに合いやすく)なる。これが、「設備投資を回収する」とか、「固定資産の回収サイクル」とか言われるものの本質である。ちなみに、設備資産(工作機械等)が「固定資産」に計上(区分)されるのは、上記のように、回収に通常、一年以上要すからである。「(固定資産は)一年以上持つから回収に一年以上かかる」というようなあいまいな理解では、経営判断を誤る。
私の経験では、このことをしっかり理解できている経理マンは、一流企業においても(むしろ一流といわれる企業ほど)多くはないように思う。ましてや会計をしっかり勉強できていない若い経営者ならなおさらと思う。複式簿記とは連立二次方程式を解く作業である。あいまいな理解ではなく、しっかり数学(算数?)を理解して、経営管理を行いたいものである。
まとめ
- 設備投資の回収とは、「設備投資金額の回収」のことである。
- 複式簿記は連立二次方程式の解を求める作業に等しい。経営管理を単純に言葉で覚えるのは危険。